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【やまさんからの】 豪華客船の神隠し 出題編5 【挑戦状】
カテゴリ: 小説
<初めに>
【前回までのリンク】
【やまさんからの】豪華客船の神隠し 出題編1【挑戦状】
【やまさんからの】豪華客船の神隠し 出題編2【挑戦状】
【やまさんからの】豪華客船の神隠し 出題編3【挑戦状】
【やまさんからの】豪華客船の神隠し 出題編4【挑戦状】

【登場人物】
山岡栄一
元・警視庁捜査一課所属の刑事。作家であり元・探偵の水谷光司とは親友の間柄。

山岡あかね(旧姓・杉森)
山岡の妻。かつては水谷探偵事務所で助手として働いていた。

水谷光司
元・探偵という経歴を持つ作家。

水谷みどり(旧姓・香川)
水谷の妻。あかねと同じく、かつては水谷探偵事務所で助手として働いていた。

 
<本編>
 
 最初の寄港地であるシンガポールに向けて、神戸を出航してから既に一週間が過ぎた。
 大きな船だし、横揺れ防止装置(フィン・スタビライザー)などにより揺れが抑えられるように設計されていて、さほど大きな揺れは感じない。
それでも極端に弱い人もいるようで、希望者には無料で酔い止めの薬が5デッキに常備されている。

 アフロディーテの旅は快適ではあるが、少々退屈でもある。
 なにしろ限られた空間の中でずっと暮らしているのだから。
 船内ではそんな乗客の退屈を紛らす為に、様々な教室が開かれている。
テーブルマジックの教室、テディベア製作、パソコン教室・・・・

 私はテーブルマジックの教室に、妻はアフロディーテⅡオリジナルのテディベアを作り、姪へのお土産にすると言って、その教室を受講している。

 この頃になると、少しづつ乗客同士の交友も始まる。
 乗客の多くが暇をもてあまし、変化を求めているのだろう。
私にも、そして妻にもそれぞれ友人が出来ていた。
それは同じ日本人だったり、外国人だったりする。
もちろん、流暢な英会話が出来るワケではないが、その気になりさえすれば知っている英単語を並べるだけで結構通じるものだ。

 一緒に昼食やディナー、そしてバーで同席したり。
時にはお互いの部屋を訪れ、一緒にお茶やオセロゲームを楽しんでみたり、習いたてのテーブルマジックを披露してみたり。

 なにしろ、世界でもトップクラスの豪華客船だ。
さすがに乗客も、社会でそれなりの地位に上り詰めた人が多い。
単なる元・地方公務員でしかない私だから、少々肩身の狭い思いをしないわけではない。

 「ところでお仕事はどういったご関係の?」
 
 少し親しく話をしだすと、必ずこの話題になる。
嘘をついても仕方がないし、私は警察官であった事に誇りをもっている。
 「警視庁で刑事をやっておりました」
私がそう答えると、決まって彼らの眼が一瞬輝く気がする。

 彼らの普段の生活であれば、さほど彼らの興味をひくような仕事ではない筈だ。
だが、ある意味、この特殊な環境下では話が違うようだ。
やはり、この退屈な船の長旅生活の中で、少しでも刺激になることを欲しているのだろう。

 「よかったら色々、その頃のお話を聞かせていただきたいわ。ねぇ、あなた」
「うん。差支えがない範囲で何か聞かせてもらえませんか」
夫人の言葉に、ご主人がそう応える。
 仕事の話題になるたび、必ずといって良いほど、このパターンが繰り返される。

 そして今日も、デッキでしりあった日本人の山下夫妻とそうした展開になった。

 「ええ、いいですよ。私は警視庁の捜査一課・・・殺人や強盗などの凶悪犯罪を担当する部署の刑事でした。ですから、少し凄惨なお話になってしまうかもしれませんが、それでもよろしいですか?」
 そう断ってから話を始める。相手も熱心に聴いてくれるから、ついつい饒舌になる。

 やはり話が盛り上がるのは、名探偵の水谷光司が登場する事件だ。
本として彼自身が出版し、テレビドラマ化もされた事件を話すと皆、大いに喜んでくれる。
 
 「ああ・・・じゃあ、あのドラマで木村さんが演じていた刑事さんは、山岡さんなんですか?」
「ええ、実はそうなんです。あんなに男前じゃなくてガッカリでしょう?」
 私がそう言うと妻が軽く私の腕をこづいて笑いながら言う。
「何言ってるのよ。主役はあくまで水谷先生なんだから、ガッカリするほど覚えてもらってないわよ」
「ははは・・それもそうだな。あ、実はですね、この妻もあのドラマに登場しているんですよ」
「ええっ!」
 山下夫妻が、思ったとおりの反応をする。
「ちょっと、いきなり何を言い出すのよ」
妻が私の袖を引っ張って言う。
「いいじゃないか、別に。妻はね、水谷が探偵だった頃に助手をしていて、それで私とも知り合ったんですよ」

 ここまで話が進めば、打ち解けるのも早い。
その後も昔の話で大いに盛り上がり、デッキからカフェテラスに場所を移し夕暮れ時まで談笑は続いた。
 「いやぁ、おかげで面白い話がたくさん聴けました。どうです?今晩、夕食後にバーでご一緒しませんか?お話のお礼とお近づきのしるしに是非とも奢らせてください」 
 夕食時も近づいた頃、席から立ち上がりながらご主人から受けたお誘いをお受けする事にして、自室にいったん戻った。

 今日のドレスコードは 「フォーマル」 。
私はタキシード、妻はイブニングドレスに着替えた。
いつものように食券綴りから、今日の夕食分の食券2枚を切り取り、レストランに向かう。
今日の夕食はフランス料理にした。
「フォーマルならばやはりフランス料理だろう」
と、妻と私の意見が一致したのだ。

 本当はフォーマルという服装が、なんとなく窮屈で私は苦手なのだ。
「たまにはルームサービスでもいいんじゃないか?今日はフォーマルだし・・・」
朝には私がそう提案したのだが・・・・
「せっかく買った服だし勿体ないでしょ?それにレストランで食べる食事とルームサービスじゃ、ずいぶんとグレードが違うらしいわよ」
という事で一蹴された。
 食事の後は山下夫妻との約束も出来たことだし、いずれにせよフォーマルに着替えなければならなかったのだから、これで良かったのかもしれない。

 
 2時間後、私たち夫婦は山下夫妻と一緒にバーにいた。
 
 船に乗ることに至った経緯や、自分の故郷。趣味。そんな話をしながら親睦を深めていく。
アルコールが入ると人が変わる人もいるが、夫妻は相変わらず穏やかなままだった。
 
 「そう言えば、嵐に近づいているらしいですよ」
バーでブランデーのグラスを傾けながら山下さんがそう言った。
毎朝部屋に届けられる、船内新聞に書いてあったという。
そういえば、今日は遅くまでぐっすりと眠っていて、今日の新聞を読んでいなかった事に気づいた。




応援よろしく 一日一回だけでいいです。お願いだから押して!!
 

04:15 UP 

Read moreから 「やまさんからのひとこと」

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Edit / 2009.10.12 / Comment: 3 / TrackBack: - / PageTop↑
【やまさんからの】 豪華客船の神隠し 出題編4 【挑戦状】
カテゴリ: 小説
 アフロディーテⅡの最初の夜が明けた。
子供の頃ならば
「興奮して寝られなかった!」
なのだろうが、私も妻もそういう時期は過ぎてしまっていた。

 7時にセットしておいた、ベッドに備え付けの目覚まし時計のアラームで目を覚ました。
ベッド横の窓を覆っているカーテンを開ける。
快晴の風景が起きたばかりの目には眩し過ぎる。

 私たちの部屋がある7デッキ(ビルに例えるならば7階フロア)には、私たちの部屋のようなKランクの部屋とF、そしてDの部屋がある。
FとKはそれぞれ船の右舷・左舷に均等に割り振られており、Kの部屋の窓の前に脱出用のボートが設置されている。
 FとKの部屋の前は、非常時用の脱出通路となる為乗客の往来が可能な通路となっている為、それぞれの部屋の窓は開閉が出来ない。
 もう一つのDの部屋は7デッキの最後部に4部屋あり、この部屋は広さもそこそこある上に、窓も開閉も可能で、窓の外にはバルコニーもある。

 服を着替え朝食の準備をする。
朝食の時間は7時から10時半。
朝食を食べることができる店舗は複数ある。

 「記念すべき最初の朝食はドコにする?」
化粧を整えながら妻が言う。
それを聞いた私は、ティーパックで準備された日本茶を二人分用意しながら、パンフレットを手にした。

 ビュッフェ形式のレストラン、和朝食の和食レストラン、中華粥での朝食が食べられる中華レストラン。
乗客はその朝の気分で、どの施設を利用しても良い事になっている。

 オートロック式の部屋の鍵を兼ねた船内IDカード・・・落とさないように紐をつけたパスケースに入れて首から下げられるようにしている・・・を妻の分と両方準備し、 乗船時に手渡された、客室の番号と私達の名前が全ての食券に記載された冊子式の食券綴りから、今日の朝食分の食券2枚を切り取った。

 「ビュッフェにしようか。まだ味噌汁が恋しくなるほど旅してないし」
その提案に妻も異議はないようだ。

 化粧を終えた妻と2人連れ立ってレストランに向かう。
11デッキにあるそのレストラン【マーメイドカフェ】へと向かった。

 エレベーターに乗り、11デッキで降りる。
11デッキの後方に設置されている【マーメイドカフェ】の入り口に到着すると、ウェイターが声をかけてきた。
 「おはようございます。お2人様でいらっしゃいますか?」
「2人です」
「承知いたしました。それでは朝食券を頂戴いたします」
私が差し出した2枚の朝食券を受け取ると、彼は軽く目を通した後、すぐに私たちを先導するように歩き窓際の席へと案内してくれた。
 「それではどうぞごゆっくり。ご朝食はセルフサービスのビュッフェで御準備しております」
毎日、何度も同じ言葉を繰り返しているのだろう。そう言い終えるとすぐに入り口まで戻り、客の案内を同じように繰り返している。

 【マーメイドカフェ】の中央部に設置されている料理台に並べられた料理を、かるく一通り見て周った後にトレーを手に取り、箸や紙おしぼりを取る。
後は適当に食べたいモノを、必要な分だけ皿に取り席に戻る。
コーヒーなどは食後に、熱いものを取りにくれば良い。

 神戸にはまもなく到着するようだ。
神戸で乗客を乗せた後、アフロディーテⅡは、いよい外洋に出て次の寄港地シンガポールへ向かう。

 「あと数時間後にはシンガポールに向けて出向なのね」
妻がクロワッサンを手に、笑顔で話しかけてきた。
「うん。シンガポールの次はインド、その次はオマーン、そしてエジプト・・・楽しみだな」
「ワクワクするわね」
こっちまで嬉しくなるような笑顔だ。それを見ている私もきっとそんな顔をしているのだろう。
「水谷事務所で行くと、大抵ロクな事はなかったから今回の旅は本当に楽しみだし嬉しいわ」
 彼女が言う“大抵ロクな事はなかった”とは、彼女たちが旅先で巻き込まれた事件の事を言っているのだろう。
もっとも今となっては、そんな凄惨な事件も探偵事務所勤務時代の記憶の一部となっているようだが。

 この後、船は何の滞りもなく新たな乗客を乗せ、予定通り次の寄港地シンガポールに向けて出航した。



02:31 UP

※Read moreから「やまさんからの挨拶」

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Edit / 2009.07.10 / Comment: 6 / TrackBack: 0 / PageTop↑
【やまさんからの】 豪華客船の神隠し 出題編3 【挑戦状】
カテゴリ: 小説
 フランス料理店のコースで、今日の夕食を食べ終えた私達夫婦は、船内のレンタルDVDのショップに立ち寄る事にした。
 長い船旅で、テレビの電波など当然届くはずも無い海域も航行する。大雨で甲板に出られない日も当然ある。体調がすぐれず部屋の中で一日を過ごす日もあるかもしれない。
そんな日の為に、映画などの様々なジャンルのDVDを格安でレンタルしている船内の店舗もあるのだ。
 アフロディーテⅡは、横浜を出航し、現在神戸に向かっている。明日の午前中には入港しその後、いよいよ外洋へと向かう事になる。

 DVDを借りた後、部屋に戻る前にもう一度2人で甲板に出た。
右舷に岸の明かりがきらめいていて、なかなか綺麗な光景だ。

 甲板の端に立ち、下を見下ろしてみる。
そこには客室が4階分並んでいて、ほとんどの部屋にバルコニーがついているのが分る。
 全ての部屋は海に面してはいるものの、部屋のグレードはS・A・C・D・E・F・Kの7つのランクがあり、FとKランクの部屋は窓のみでバルコニーは無い。
 私達夫妻の部屋はKランク。タダで世界一周できるのだからそれだけでもありがたいのだが、そうは言ってもいざ乗船してしまうとバルコニー付きの部屋を羨ましく感じる。
 さすがにどの場所からも、それぞれの室内は見えないように設計されてはいるものの、カーテンを閉めていない部屋からはその室内の明かりがバルコニーに漏れて照らされている。

 有料となっているので、今のところ利用する気はないが、バルコニーにセットされているテーブルで、ルームサービスの食事もとれるようだ。

 「確かに風を感じながらのバルコニーで食事するのも美味しそうだね」
「そうね。髪とか乱れてしまいそうだけど」
私の言葉に、妻がそう返した。
 そう言いながらも自分の身体を包み込むように両腕を胸の前で組み、両方の手のひらで二の腕をさすっている。
「ごめん、寒い。先に部屋に戻ってるわ」
「ああ、ごめん。俺も一緒に帰るよ。俺も寒くなってきた」
 暦の上では既に春ではあるが、まだ4月も上旬で日が暮れるとまだまだ寒い。

 少し小走りで船内に戻り、甲板後方に2基設置されているエレベーターから自分達の部屋がある7デッキに戻る。

 アフロディーテⅡは、建物に例えるなら12階建てだ。
最上階に当たる12デッキには私達がさっきまでいた甲板があり、他にはテニスコートや露天風呂、フィットネス施設がある。
 客室層は10デッキから7デッキにあり、当然最上級の・・・ホテルであればロイヤルスイートルームやスイートルームに当たるSやAランクの部屋は10デッキにある。

 「SとかAとかのお客さんと仲良くなって、部屋にいれてもらおうよ」
そんな半分本気、半分冗談を言いながら部屋に戻る。
 全ての部屋から海が見えるのに、一体何が違うのか。
もちろん調度品や部屋の大きさにも差があるのだが、実はKの部屋の前には非常用の脱出ボートが設置されているのだ。
その為、いささか“眺め”が悪い。だからK。

 部屋に戻り、まずはバスタブにお湯を張る。ユニットバスだがそれで充分だ。
露天風呂に行くことも考えたが、まだまだ旅は長く続く。初日から全てを満喫する必要は無い。
「楽しみはこの後の航海のためにも残しておかなきゃ」
とは妻の弁だ。

 お湯が溜まるまでの間、部屋に設置されている小型の電磁調理器でお湯を沸かし、コーヒーを飲む。
コーヒーを飲みながら妻に目をやると、携帯電話を取り出しメールをしているようだった。
おそらく相手はみどり君だろう。
 
 コーヒーを飲みながら考えていた。フランス料理での夕食はたしかに美味しかったが、何か物足りない。
明日神戸に到着したらカップラーメンを買い込んでおこう。と。


02:34 UP

※Read moreから「やまさんからの挨拶」

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Edit / 2009.07.01 / Comment: 8 / TrackBack: 0 / PageTop↑
【やまさんからの】 豪華客船の神隠し 出題編2 【挑戦状】
カテゴリ: 小説
 アフロディーテⅡが出航しても、しばらくは誰も船内には戻ろうとはしなかった。
 あまりにも甲板から見える夕日が美しかったからだ。
真ん丸に。そして見事なほどに周りの空を茜色に染めて沈んでいく夕日。
これほどまでに心を奪われる夕日は、これまで見たことが無かったような気がする。
 いや・・・美しい夕日は今までもきっと何度も目にしている筈だ。
ただ、その美しさに心を奪われる余裕が私に無かったのだろう。

 甲板に備えられたテーブル付きの椅子に腰掛けて沈んでいく夕日を眺めていると、いつの間にかその場から離れていた妻が、バーコーナーからビールの入ったグラスを2つ手に持って戻ってきた。
「飲むでしょ?」
「ありがとう。
妻の言葉にそう応え、グラスの1つを受け取った。そしてグラスを合わせ、2人だけのささやかな乾杯。
チン、と小さな音を立てたグラスの中の泡が、夕日に映えて美しかった。

 「綺麗な夕日だな」
「うん。すごく綺麗・・・・」
二人とも顔を見合わせる事無く、そう言葉を交わしビールを飲む。
 「しかしアレだな。たった一枚の葉書でも出してみるモンだな。まさか、こんな贅沢な旅ができるなんて刑事の頃は考えた事も無かったよ」
「そうね。あなたにそんなくじ運があるなんて思いもしなかった」
「お前は結構行った事あるもんな、海外旅行」
「まぁ、水谷事務所の慰安旅行みたいな感じでね。先生とみどりと3人でだけど」
 
 水谷はマスコミ受けするタイプの探偵そのものだった。
長身で顔も悪くない。弁は立つし、会話もよどみが無く理路整然としている。
 今は作家として収入を得ているが、現役時代は何度となくマスコミの取材を受け、本業以外の収入もあり、年に一度は2人の助手・・・あかねとみどり君を連れて旅行していた。
 一方、私は警視庁の警察官を拝命後、機動隊、交番勤務を経て捜査一課の刑事を長年勤め上げた末、昨年に退職。今はホテルの暴力団対策の、いわば“用心棒”
 刑事と言えば聞こえはいいが、生活に“おおいに”ゆとりがある水谷を羨ましく思った事が一度も無いと言えば、それは嘘になる。
 今は私の妻であるあかねもかつては、水谷の細君であるみどり君と同じ水谷探偵事務所の助手だった。あかねが水谷の妻となっていたとしても、何の不思議も無いのだ。
 今や大作家の妻であるみどり君。そして元刑事でホテル勤めの“用心棒”の妻に過ぎないあかね。
 妻がどう思っているのかは知らないが、妻に対する表現しづらいその“申し訳なさ”は、いつも私の心の片隅にあった。

 自分の“稼ぎ”に拠る物ではないと解ってはいるが、今回の豪華客船での世界一周の旅はその“申し訳なさ”を払拭させてくれた。
 当選を知らせる通知が届いた時は、単にその夢のような旅が出来る喜びよりも、不満らしい不満も言わずに私を支えてくれた妻に、喜んでもらえるという喜びの方がはるかに強かったのだ。

 次第に暗くなっていく甲板を見回してみると、乗客がかなり“多国籍”である事に気づく。
そしてそれはこの先、寄港地に到着・出航する度によりハッキリと色濃くなっていくだろう。

 実は、このアフロディーテⅡに乗船している客の全てが、私達夫婦のような【世界一周コース】の乗客ではない。
 アフロディーテⅡは日本船籍の船で、私達が乗ってきた横浜港から出航し神戸港へ。
そしてその後、いよいよ外洋に出て行くのだが、その先々の寄港地で乗り降りする乗客も多数存在する。
高価な【世界一周コース】だけに乗客を限定し無駄な空き部屋を作るよりは、極力“満室”状態を保つという営業方針に基づくもののようだ。
 飛行機で日本を訪れた、ヨーロッパやアラブの富豪たちがアフロディーテⅡでの船旅で帰国するという利用の仕方も、かなりの数にのぼるのだという。
 最大乗客数はほぼ900名。それとは別に乗組員数が約440名だというのだから、いかにこの船が巨大な船か解るだろう。

 沈んでいく夕日を見つめながら、これからの旅に思いを馳せている内に夕日はすっかりと沈んでしまい、辺りもすっかり暗くなってしまった。
 「もうすぐ夕食の時間よ。着替えに戻りましょう」
妻に促され飲み干したビールのグラスを手に席を立つ。バーコーナーの返却口にグラスを返し、私達の部屋に戻る。
 
 アフロディーテⅡでは、細かな「ドレスコード(服装指定)」が設けられている。
日中の船内や寄港地での行動は、常識的な範囲であれば普段着で構わないのだが(客室内では自由)17時以降のパブリックスペースでは、事前にアフロディーテⅡが指定したドレスコードに従わなければならない。
 「カジュアル」「インフォーマル」「フォーマル」・・・「カジュアル」「インフォーマル」ならば、私が持っている服で対応可能だったが、「フォーマル」には私も妻も困った。
 私はタキシード、妻はイブニングドレスを新調し、無事安心して乗船できるようになった。

 今日のドレスコードは「インフォーマル」、私は黒のシングルスーツにネクタイ。妻はブルー系のワンピースに着替えた。
 乗船時に手渡された、客室の番号と私達の名前が全ての食券に記載された冊子式の食券綴りから、今日の夕食分の食券2枚を切り取り、レストランに向かう。
 レストランは和・洋・中とあるのだが、洋に至ってはフランス料理、イタリア料理、そして更にビュッフェ料理が食べられる店まである。
 和食は所謂和食、そして寿司屋(寿司屋は実費となる)。中華は広東料理の一店のみのようだ。

 乗客は食事の際、どの店舗を使っても良い事になっているが、それは食券と引き換えになっており、ひとりの客が何店舗もの“はしご”をするのを防ぐようになっている。(実費で支払うのなら“はしご”も可能だが)
 寿司屋以外の店舗は、それぞれがかなりの広さを持っており、席は当然自由席で、グループで食べるも良し。長い航海で気の合った乗客同士で相席するも良し。自由はかなり利くようだ。

 私達の今晩の食事は、航海初日の記念という事で、普段は食べることが少ない
「フランス料理!」
で意見が一致した。
 食事自体は“込み”の旅行だが、アルコール飲料と炭酸飲料については実費計算となる。
しかし、アルコールなしの夕食ではそれも寂しい。まして今日は記念すべき夜だ。
まずはビールで乾杯し、グラスワインを注文し、運ばれてくるフランス料理のフルコースを楽しんだ。

 「さすがはアフロディーテⅡのレストランよね。すごく美味しいわ」
一皿一皿運ばれてくる料理の全てを、笑顔で口にする妻を見ていると、こちらまで楽しくなってくる。
食べつけないフルコースだし気取った(というワケでもないのだろうが)、たまにはこういう食事も悪くない。そんな夕食だった。


 
応援よろしく おかげさまでそこそこいい調子^^ありがとうございます^^ 


07:14 UP

※Read moreから「やまさんからのひとこと」

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Edit / 2009.06.21 / Comment: 3 / TrackBack: 0 / PageTop↑
【やまさんからの】豪華客船の神隠し 出題編1【挑戦状】
カテゴリ: 小説
 「ヤマオカ様御夫妻ですね?ようこそアフロディーテⅡへ。良き船旅をお過ごしください」
港での乗船手続きを終え、乗船タラップからいよいよ船に乗り込もうとする時に白い制服を着こなした乗り組員にそう声をかけられた。
金髪で長身の白人青年の乗り組員を目にした時に一瞬身構えたが、彼の流暢な日本語に思わず安堵の笑みがこぼれた。
「ありがとう。よろしくね」
妻がそう言葉を返し、二人で歩を進める。

 アフロディーテⅡとは、この大型客船の名前である。いわゆる豪華客船として知られているこの船に、金持ちでもなんでもないこの私が乗船することが出来たのは、全くの幸運だった。

 ある日新聞に載っていた広告記事。それは簡単なアンケートに答えれば抽選で2名1組に豪華客船での世界一周の旅が当たると言うものだった。
『豪華客船 アフロディーテⅡで行く世界一周の旅プレゼント!!』
その魅力的な言葉に惹かれ、ポストに投函したたった1枚の葉書が、まさかこの幸運を引き寄せるとは・・・・。
もちろん淡い期待はしていたが、まさか本当に当選するとも思っていなかった。

 長年勤めていた警視庁を昨年に定年退職し、暴力団対策の一環として雇われていたシティホテルに半ば強引に長期休暇をもらい、夢のような今回の旅行がようやく実現したのである。

 乗船し、私たちに割り当てられた客室に荷物を収め、妻が淹れてくれた客室備え付けのコーヒーで軽く一息いれてから、私たちは船のパンフレットを手に船内を散策することにした。

 長い船旅を飽きずに過ごせるように、船内各所に設けられた施設の数々。
映画館やエンターティナーによるショーが楽しめるショーラウンジ。生演奏でダンスが楽しめるダンスホール。大型の図書館やインターネットを楽しめるパソコンルーム。数箇所あるレストランは和・洋・中、そしてコーヒーラウンジやバーもある。
カジノやテニスコート、プール、そしてフィットネスクラブ。エステサロンやジャグジー、サウナを備えた大浴場。外科手術にも対応可能な医務室もある。
1つ1つを挙げていけばキリがないが、これはもはや小さな街である。

 最初は二人で感嘆の声をあげていたが、その声はだんだんと小さくなっていった。
抽選で乗船した私たちとは違い、他の乗客は正規の金額を支払って旅をする人達ばかり。すれ違う人達は、今流行の言葉で言えば「セレブ」ばかりなのだ。
いくら私たちが鈍いと言っても、ここまでの差があれば、自分たちが「場違い」な場所にいるという事くらいは解る。

 「私たち・・・浮いてるわよね」
妻が小声でそう言って、私を見ながらふふっと小さく笑った。今まで一体何度、この妻の明るさに救われてきただろうか。
 「ああ。あ、今の人の腕時計、ロレックスだよな。すごいな、きらきらして」
半袖のTシャツで、闊歩する初老の男性とすれ違った男性の腕にソレが見えた。
「あなたの時計はオリンピック公式時計のシチズン製よ、質実剛健。あなたにピッタリだわ」
 今度はブランド物で着飾った女性とすれ違った。
「すごいわね。ヴィトンのバッグにシャネルのスーツ・・・他にもたくさん」
「まるで広告をベタベタと貼り付けたF1マシンだな。高い金額を支払って看板を背負ってるようなモンだ」
「恥ずかしいのは持っていないことじゃなくて、それを妬む心よね」
「お!いいこと言うねぇ」
そういって二人で顔を見あわせて笑った。周囲の人も何事かとこちらに一度視線を向けたが、すぐに元に戻した。
「お前と結婚して良かったよ」
「私もよ」
私の言葉に、妻が笑顔でそう返してくれた。

 船内の施設を一通り廻り終えた頃、腕時計に目をやると出航の予定時刻が近づいている。
「外に出ようか」
そう妻を促して甲板デッキに向かうエレベーターに乗り込んだ。

 まもなく到着したデッキには既に多くの人達がいて、それぞれがカメラやビデオカメラを手に、出航を待っていた。
皆、笑顔だ。これからの数ヶ月、私たち夫妻は彼らと共に世界を旅する事になる。
「そんなに悪い人達はいなさそうだね」
出航の準備を進める港の様子を眺めながら、横にいる彼女に小さな声で話しかけた。
「うん。私も同じ事を思ってた」

 空は西に日が沈み始め、綺麗な茜色に染まっている。
 その時、妻の携帯が鳴った。その着信音で相手が誰なのか私にも判る。
相手は女性、水谷みどり。旧姓は香川。私の妻のあかねとはかつて同じ職場で働いていた人物だ。
「そう、今から出航するところ。え?先生も来てるの?どこよ、全然わからない」
話から察するに“先生”と二人で見送りに来てくれているようだ。
 「うん?水谷とみどり君が二人で来てくれてるのか?どこだって?」
「うん、そうらしいんだけど・・・・え?どこ?灯台?」
灯台に二人して目を灯台に目を向けた。
「あ!いた!!」
声を二人して同時に声をあげ、同じ方向を指さした。

 一組の男女がそこにいた。こちらに大きく腕を振っているみどり君と、その傍らに長身の男が一人。
妻が“先生”と呼び、私が“水谷”と呼ぶ、その男の名は水谷光司。

 水谷は私の古くからの友人であり、かつては「名探偵」としてその名を知られた男だった。探偵と言っても浮気調査や家出人を探す探偵ではない。
迷宮入りしそうな事件や、不可解な事件に首を突っ込んできては、その事件の真相を暴いていく、金田一耕介や明智小五郎といったタイプの探偵だった。
 私の妻あかね(旧姓 杉森)とみどり君は、その水谷探偵事務所で情報収集やサポートをする助手的な役割を勤めていた。
 探偵だったと、過去形になっているのはそのままの意味で、水谷はもう探偵事務所を閉めたのだ。
彼にその理由を言わせると

 「DNAだのなんだのと、科学捜査がここまで進歩すれば探偵がでる幕は無いよ。こういっちゃなんだけどそのおかげで魅力のある事件が無くなったんだ」

だそうだ。
 
 今は現役時代に自分が解決した事件を題材にした回想録を出版し、それなりの収入を得ている作家となっている。

 あかねがみどり君と話している間に大きな汽笛が鳴り、船がゆっくりと動き出した。
 私も携帯電話を取り出し、水谷に電話をかけた。
「来てくれたのか。早めに言ってくれれば港の喫茶店ででも話ができたのに」
『そうしたかったんだが道が込んでてね、間に合うかどうかギリギリの線だったからさ。実際着いたのもついさっきなんだ』
「そうか、わざわざありがとう」
『それにしても大きな船だな。船内はさぞ凄いんだろうな』
「ああ。噂には聞いていたし、当選してから色々と調べはしたが、実際この目で見てみると想像以上だぞ。その辺のホテルじゃ太刀打ちできないだろうな」
『そうか、楽しんでこい。食事はどうなってるんだ?』
「船内の買い物や、寄港地での買い物以外は“招待客扱い”だよ。1日3食全部タダさ。今回の抽選はアフロディーテⅡの経営会社の企画だからね」
『お前のせいでみどりが“私も行きたい!”ってうるさいよ。連れて行くって言うまでしばらく言われそうだ』
電話の向こうで、水谷が軽く苦笑いしている顔が思い浮かぶ。
「連れて行ってやれよ。出す本出す本、全部ベストセラーじゃないか。あかねから聞いたが映画化の話も来てるらしいな。印税凄いことになってるだろ」

 そんな話を交わしていると電波状況が悪化してきた。
岸もいつの間にかずいぶん遠くに見える。
『これで切るから、楽しんでこいよ。その船、もう巨大な密室だからな気をつけろよ~』
 そう言って水谷が電話を切った。そしてその「巨大な密室」が、現実となって私を悩ませる事になろうとは、この時の私にはまだ知る由も無かった。


00:31 UP
※Read moreから「やまさんからの挨拶」

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Edit / 2009.06.19 / Comment: 5 / TrackBack: 0 / PageTop↑
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やまさん

Author:やまさん
Illustrations by 「遼」さま

ライブドアブログより引っ越してきました。

趣味は、キャンプやバイクツーリング、読書、インターネット、ゲーム等。
現在独身の♂。
誕生日は2/22(ここ重要)
「ブログもプロレス」をモットーに楽しんでもらえるブログ作りを心がけてます。
どうぞ皆様御贔屓に。

前ブログ「やまさんのお気楽日記」
http://blog.livedoor.jp/yamasann0940/

アフィリエイト関連オンリーのブログとは一線を画しております。
悪しからずご了承くださいませ。


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